変形労働時間制導入を可能とするためには、第200回国会(臨時会)で付された附帯決議を読み解く必要があります。附帯決議には9項目が挙げられています。これらについて考えていきます。
教育職員の適切な業務量とは
附帯決議は第一に以下のように示しています。
一 本法第七条の指針(以下「指針」という。)において、公立学校の教育職員のいわゆる「超勤四項目」以外の業務の時間も含めた「在校等時間」の上限について位置付けること。また、各地方公共団体に対して、指針を参酌した上で、条例・規則等において教育職員の在校等時間の上限について定めるよう求めること。服務監督権者である教育委員会及び校長は、ICT等を活用し客観的に在校等時間を把握するとともに、勤務時間の記録が公務災害認定の重要な資料となることから、公文書としてその管理・保存に万全を期すこと。
改正法に定められたこの指針では、教育職員の適切な業務量について、時間外勤務も含めて管理する策を文部科学大臣が定めるとしています。
第七条 文部科学大臣は、教育職員の健康及び福祉の確保を図ることにより学校教育の水準の維持向上に資するため、教育職員が正規の勤務時間及びそれ以外の時間において行う業務の量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針(次項において単に「指針」という。)を定めるものとする。
このことについて、大阪府を例としてみます。市町村立学校については未だ導入がなされていないところがありますが、大阪府立学校においてはICTによる出退勤管理が行われています。しかし、これによって明らかにされるのは労働時間ではなく、附帯決議でも使われているように「在校等時間」と言った極めて曖昧な表現です。2019年3月14日に組合が大阪府と行った時間外労働上限に関する団交では、時間外労働とは超勤四項目に限定するものであると回答しています。つまり、職員会議であったり、修学旅行など行事に関するような事柄についてのみが対象だという姿勢を崩しませんでした。そしてそれすらも、適正に記録される保証もその具体的方法も現段階では明らかになっていないのです。
付帯決議では一歩踏み込んで「超勤四項目」以外の業務の時間も含めた時間と明記しています。これまでも文科省は「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(2019.1.25)で「超勤四項目」以外の業務についての検討を示してはいます。これらが実効性を持って行われることが先決です。
「臨時的な特別の事情」を拡大させない
先のガイドラインでは、労働基準法による時間外労働の上限規制に合わせる形で、月45時間、年360時間の上限時間を設定しています。同様に上限を超えることができる臨時的な特別の事情として、「児童生徒等に係る臨時的な特別の事情により勤務せざるを得ない場合」について触れています。附帯決議では、この曖昧な表現について次のように指摘されています。
二 指針において在校等時間の上限を定めるに当たっては、教育職員がその上限時間まで勤務することを推奨するものではないこと、また、自宅等における持ち帰り業務時間が増加することのないよう、服務監督権者である教育委員会及び校長に対し、通知等によりその趣旨を明確に示すこと。併せて、「児童生徒等に係る臨時的な特別の事情」を特例的な扱いとして指針に定める場合は、例外的かつ突発的な場合に限定されることを周知徹底すること。
この「臨時的な特別の事情」とは一体どのようなものが想定されるのでしょう。
19年2月、大阪府立高校の現職教員が長時間労働によって適応障害を発症したとして、損害賠償訴訟を起こしました。その会見では、部活動指導、担任業務、海外研修の引率など多岐にわたる業務により、月120時間を超える時間外労働が発生していたことを明らかにしました。これらを「臨時的な特別の事情」とすることができるのでしょうか?
変形労働時間制導入を可能とする給特法の改正と労基法改正における上限時間の設定は、直接に関係するものではありません。地方公務員法によって、労基法を一部適用除外としたまま、また給特法によって教育職の時間外労働について整理をしないままに、学校現場の働き方について「何かをした」と「実績」を残したいだけの改正であることは明らかです。