教員への「変形労働時間制」導入はいかに行われるのか
昨年末、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の一部を改正する法律(給特法)」成立・公布されました。「改正」の中身は、一年単位の変形労働時間制の導入を可能にするというものです。
そもそも勤務時間管理がほとんどなされていない学校現場で、変形労働時間制とはどういうものなのでしょう。
労働基準法では、労働者の労働時間を次のように定めています。
労働基準法第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
そして、時間外労働を可能にするために
第36条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
が設けられており、条項に基づいたいわゆる36協定を締結していなければ、全ての時間外労働は違法となるのです。
同様に、変形労働時間制についても
(一年単位の変形労働時間制)
第34条の4 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、第三十二条の規定にかかわらず、その協定で第二号の対象期間として定められた期間を平均し一週間当たりの労働時間が四十時間を超えない範囲内において、当該協定(次項の規定による定めをした場合においては、その定めを含む。)で定めるところにより、特定された週において同条第一項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。
と定められています。
いずれもポイントとなるのは、労働組合あるいは労働者代表との書面協定(労使協定)を締結する必要があるところです。しかしながら、地方公務員法では、これらの労使協定を必要とする労基法が第36条を除き適用除外とされています。しかし、第36条についても、労基法の別表に定められた事業に従事するものとして、学校で働く技能・行政職のみがその対象とされているのが現状です。なぜならば、教員には給特法で定められた超勤4項目以外には時間外労働が存在しないとする考えのためです。そのため、現在、各学校で締結されている36協定は、教育職の労働時間については対象としていません。
今回の給特法の「改正」では、適用除外とされてきた労基法第34条の4を労使協定ではなく、条例によって導入可能とすると読み替えるものです。
一年単位の変形労働時間制導入のために定めるべきこと
いくら条例で定めるとしても、上位法である労基法を超えるものはできません。労基法では、変形労働時間制の導入に対して①労働者の範囲②変形期間の起算日③平均労働時間が週あたり40時間を超えない④対象期間の労働日数・労働時間⑤労働時間の特定について定めておくこととしています。
①については、育児短時間勤務などを取得している労働者が対象となることは考えられません。学校種などによって時間外労働は異なることから、条例によって全ての学校が対象となることも考えられません。また、同じ学校でも担当する業務や労働に対する姿勢等によって時間外労働の様態も様々です。そのような中、どのようにして条例あるいは規則がその対象者を特定することができるのか、疑問です。
③、④について、1日10時間、1週52時間、連続して労働させることができる日数は6日などといった制約があります。文科省は学期中の時間外労働を夏休み等の長期休業中に休日としてまとめ取りすることを想定しています。しかし、これらの大前提として、時間外労働の大部分を占める部活動の指導など、自主的・自発的な活動として労働時間としない現状がある限り、机上の空論と言わざるを得ません。
労働条件の変更は交渉事項である
組合と文科省の交渉でも明らかにされましたが、これら労働条件の変更は組合との交渉事項です。そのことは、法律案の付帯決議にも「一年単位の変形労働時間制の導入は、地方公務員法第五十五条第一項及び第九項の対象であることについて、通知等による適切な指導・助言を行うこと。」と明確に示されています。今後、各自治体は条例制定に向けて動き出すことでしょう。その際、労働者の要求を突きつけられるのは組合だけです。また、変形労働時間制導入に関しては、上記の付帯決議で多くの配慮すべき事項が挙げられています。今後、これらの事項についてより深く考えていきます。