なぜQ&Aコーナーか?
私たちが働く職場では、賃金、労働時間をはじめ、多くの労働条件の問題が日々、起こってきます。問題が起こった時に、みなさんはどのようにして解決しようとするでしょうか?
私たちの組合には、日々、公立や私立や独立行政法人の学校・塾・専門学校などの分野を問わず、多くの相談が寄せられます。組合員以外の方からの相談もとても多いです。それらを聞いていて、労働問題に個人で取り組むときに知っておいたら良い基本的な内容を知らない方が多いことに気がつきます。また、職場で起こった労働問題に対して、組合がない場合や組合が親身になってくれない場合、どういう相談や行動の手段があるのでしょうか?
ここではこれらを、Q&Aの形式で紹介します。
さらに、Q&Aでは、職場で起こった労働問題に対して、労働組合は何ができるか?についても紹介します。労働組合は「万能」ではありませんが、法律や経験また先人たちの努力により、多くの力と方法を持っています。それらの基本的な知識を持つことは、労働者にとって必ず力になると思います。
<目次>
1.Q&Aコーナー
- その1 残業、超過勤務
- その2 無期転換
- その3 パワーハラスメント(パワハラ)
- その4 会計年度任用職員(非常勤公務員)
- その5 非常勤のコマ数削減
- その6 解雇
その1 残業、超過勤務
Q
1-1 : 私は国立大学に勤務する教員です。以前は教育公務員だったので、教職調整額に時間外勤務手当が含まれているという理由で残業代が支払われていませんでした。が、独立行政法人になったため教職調整額が廃止され、その代わりに時間外勤務手当(残業代)を請求できるようになりました。どのように請求すればいいですか?
A
1-1 : 残業代についての基本知識として以下の点を押さえておいてください。
・まず、職場の「就業規則」を確認してください。残業代の算出は「就業規則」などを参考に行いますが、使用者が算出します。使用者が時間管理をしていない場合に、労働者、つまり自分が計算します。
・残業した時間(1分単位)を記録します。たとえば、タイムカードやタイムレコーダーの記録。それがない場合はメモを残す、など。
・残業代は月ぎめで請求をします。でも、残業代を含む未払い賃金の請求は、5年前(当面は3年)にさかのぼれます。5年以内の分をしっかり請求してください。
・教員は休憩時間が取れていないことが多いです。休憩時間が取れるよう職場全体で要求して取り組むことが大切です。しかし、現実に全く取れていないなら、休憩時間も残業代請求の時間に加算して請求してください。
※ なお、国立大学附属の幼稚園、小中学校に勤務する教職員も、以前は公務員でしたが今は民間労働者なので、残業代を請求できます。
Q
1-2 : 私は私立学校に勤務する教員です。私も職場の仲間も超過勤務があるのに残業代がまともに支払われていません。どうしたらいいでしょうか?
A
1-2 : まず、個人でできることは以下のことです。
・上の A 1-1 のように計算し請求する
・請求しても、使用者が残業代支払を拒否する場合は、事業所のある地域を管轄している「労働基準監督署(労基署)」に、相談あるいは申告をします。事業所に労基署からの調査と指導が入ります。そのあとも、労基署と連絡を取り合って、労基署がどのように動いているか把握してください。
・職場にはあなた以外にも残業代不払いがあると思われるので、職場の同僚に話してみて仲間を集める、という方法も力になります。
Q
1-3 : 労働組合は、超過勤務についてどんなことができますか?
A
1-3 : 労働組合でできることは、以下のことです。
・労働組合として、残業代支払いを求めて「団体交渉(団交)」を申し入れます。組合から団体交渉を申し入れられたら、使用者は正当な理由なくこれを拒否することはできません。(労組法7条2号)
・団体交渉の場では、各人が残業時間を明らかにします。
・団体交渉で使用者が支払いを拒否する場合は、
✔️ 各人の残業代をまとめて「労働基準監督署」に相談あるいは申告をします。
✔️ 不誠実団交(団交拒否)で「労働委員会」に申し立てることもできます。(後述)
その2 無期転換
Q
2-1 : そもそも、無期転換とは何でしょうか?
A
2-1 : 有期雇用契約労働者(契約社員、アルバイトなど)からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
Q
2-2 : どんな人がどうやったら無期転換できますか?
A
2-2 : 有期雇用契約で働いていた者が5年を超えた段階で、無期雇用契約に転換することを使用者に「申し出る」と、使用者はこれを承諾したことになります。使用者はこの申し出を拒否できません。(労働契約法18条)
Q
2-3 : 無期雇用の申し出は、いつからできますか? 申し出る期限はありますか?
A
2-3 : 5年を超えて有期雇用契約が終了するまでの期間なら、いつでも申し出ることができます。
Q
2-4 : 私は私立大学の非常勤の教員です。学校(法人)から「無期転換ができるがどうするか」と言ってきました。どう動けばいいですか?
A
2-4 : 個人でできることは、以下のことです。
・使用者に対して、無期転換した場合の労働条件について事前に確認します。
・使用者に対して、無期転換を申し出ます
Q
2-5 : 労働組合は、無期転換についてどんなことができますか?
A
2-5 : 組合で無期転換について取り組めることは、各人毎の申込みをアドバイスすることです。A2-6でも説明しているように、無期転換後の労働条件をしっかり確認することが大切だからです。
Q
2-6 : 無期転換を申し出ることは、労働者にとって得でしょうか? 損でしょうか? 申し出る際に留意しておくべきことはありますか?
A
2-6 : 無期転換は、以下の点をしっかり知って、決める必要があります。
・雇用が有期雇用に比べて安定することは間違いありません。雇用年数の定めがなくなるのだから、正当な理由なく解雇できないことになります。だから、組合としては基本的に無期転換することを労働者に薦めたいです。
・しかし、以下の点も重要な留意点です。
無期雇用契約にともなって「定年制」が適用されることも考えられます。期限のない正規雇用者には「定年制」があります。一方、非常勤などの有期雇用者には定年制が適用されません。故に、正規雇用者が65歳定年であっても、有期雇用者は70歳や75歳まで働くことができる場合もあります。ところが、有期雇用者が無期転換すると、正規雇用者と同様の定年制が適用になってしまう場合が多いです。だから、もし、定年制を受け入れるのが嫌な場合、従来通りの有期契約を更新することも選択肢になります。
・このように、無期転換した場合の身分、ルールについて、事前に確認することが重要です。
その3 パワーハラスメント、いじめ
Q
3-1: 職場で上司からパワハラを受けています。どう動けばいいでしょうか?
A
3-1 : まず、個人でできること、すべきことは以下の点です。
・証拠となる記録(以下)を集めます
・パワハラの具体的な事実ー日時、場所、内容、目撃者、自身のリアクション、他者への相談などーを記録します。記録は、手書きのメモ、録音、なども入ります。
・パワハラを受けたことをだれかに相談したSNSなども証拠となりうるので保存しておきましょう
・同じ加害者によるパワハラの犠牲になっている人が職場にいないか調べ、情報の共有や協力をします
・パワハラの現場を目撃している同僚を探し、協力をしてもらいます
・職場の「パワハラ委員会」やパワハラ委員に申し出ます
Q
3-2: 職場のパワハラ委員会に訴えましたが、十分な対応をしてもらえません。組合は、パワハラに対してどのように取り組みますか?
A
3-2 : 労働組合は以下のようにパワハラに取り組みます。
・組合は「労使関係の正常化」という観点からパワハラの根絶に取り組みます
・組合として、「労働条件改善」「使用者の安全配慮義務」を要求して団体交渉を申し入れます
・同僚との間の嫌がらせやいじめなど、労使関係がない場合は、個別相談にとどまります
・ただし、同僚との間であっても、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」には、集団によるいじめ・嫌がらせもパワハラであり、使用者は防止する措置を講じなければならない、とあります。この点で、団体交渉による解決を探ることもあります
その4 会計年度任用職員(非常勤公務員)
Q
4-1 : 公務員の「会計年度任用職員」とは何ですか? 今までの「非常勤職員」と、どう違うのでしょうか?
A
4-1 : 2020年4月1日に地方公務員法が改正施行され、それまでは地方自治体によって地位(身分)がさまざまだった非常勤職員、補助職員、非常勤講師などの臨時・非常勤職員がすべて「会計年度任用職員」の地位(身分)に統一されました。名前のとおり、会計年度内(1年以内)に限って雇われます。
かつて、非常勤職員の多くは、民間企業労働者と同じく「労働組合法」が適用されましたが、会計年度任用職員(2020年制定)になると「地方公務員法」が適用され、労働基本権が制約されることとなりました。
Q
4-2 : 会計年度職員になってボーナスが出るようになりましたが、その分、今までの賃金が削られてしまうと言われました。どうすればいいでしょうか?
A
4-2 : 賃金など勤務条件については組合が交渉するしかありません。個人でできるのは、都道府県の人事委員会や市町村の公平委員会に措置要求(地方公務員法46条)ですが、ハードルが高いです。
注)教育合同組合員の行っている措置要求については以下のページを参照
Q
4-3: 組合が交渉できる範囲は何ですか?
A
4-3 : 組合は、勤務条件すべてにおいて交渉でき、また組合は雇用(任用)継続について交渉できます。組合から団体交渉を申し入れられたら、使用者は正当な理由なくこれを拒否することはできません。(労組法7条2号)
その5 非常勤コマ数削減
Q
5-1: 私は大学で教えている非常勤です。大学から来年度のコマ数を減らすと提案されました。どうしたらいいでしょう?
A
5-1 : 個人でできることは、使用者に理由を聞き、理由に納得ができなければ元に戻すよう要求することです。
Q
5-2: コマ数削減について、労働組合ができることは何ですか?
A
5-2 : 組合ができることは、以下の点です。
・即時、団体交渉を申し入れることができます(もし組合に加入していなければ、すぐに加入し、大学に「組合加入通知」をして団体交渉を要求します)
・団体交渉ではコマ数削減の理由を問い、合理的理由かを判断します
・コマ数削減は教科カリキュラム変更を理由とされることが多いですが、組合員ゆえ又は積極的に組合活動を行ったことを理由にしている場合は、削減は認められません。
・専任教員の担当コマ数を削減することで非常勤講師のコマ数を維持する大学等もあります。つまり、組合に所属していることで、使用者が安易にコマ数を削減できないという緊張感を使用者に与えることができます。
その6 解雇
Q
6-1: 解雇されそうになっています。どう動けばいいですか?
A
6-1 : 個人でできることは以下です。
・まず、解雇理由を突き止めます。その理由に納得できなければ、・・・
・解雇理由が合理性や社会通念上仕方ないと考えられないことを理由に抗議し、解雇の無効を主張します(労働契約法第16条(解雇))
・雇用期間が満了する前に、雇用の継続を希望する旨を使用者にはっきりと伝えます(労働契約法19条(雇止め))
Q
6-2: 解雇について労働組合にできることは何ですか?
A
6-2 : 組合でできることは、以下の点です。
・即、使用者に解雇撤回を求めて団体交渉を要求します。団体交渉を使用者は拒否できません。
・解雇理由を説明させ、合理的理由がなければ解雇を撤回するよう要求します。
・その他、さまざまな団体行動(抗議行動、ストライキなど)をとることもできます。
以上